牛を飼い始めるまで、 私は牛というものはぼんやりしていてあまり反応のない動物だと思っていましたが、実際に世話を始めるとそれまでの考えが大幅に間違っていたことに気付きま した。 まず第一に習性を好み、警戒心と観察力が鋭いこと。いつも同じ時間に餌をもらえるのを期待していて、その頃に なるとみんな餌場の近くに勢揃いして待っていますが、違う服を着て行ったりするとそれが私だというのが分かるまで耳をぴんと立て、すぐにでも逃げられるよ うな体勢でこちらを見ています。 |
牛たちがエサを食べているところ。 遠くの方に寝そべっているのが「Psycho-サイコ」です。 |
広い放牧地から水飲み 場まで来るときも縦一列の行列になって幅50センチぐらいの歩道を自然に作り、そこ以外は歩きません。面白いのは、冬など雪の深い中を歩いてくる際、初め に水飲み場に来た牛たちが飲み終えて向きを変え戻り始めると、行列の最後の方の牛たちは前に進めなくなるので仕方なく「あれ、まあいいや」というように飲 まずに帰っていくのです。牛たちの群れにもリーダー格と追従型のものがあるため、飲めずに終わるのはいつもボーっとしている同じ牛たちになってしまいま す。それらはまた別のときに改めて飲みに来なくてはなりません。また、自分たちの通路に見慣れないものが落ちていたりすると(例えばビニールの切れ端や紐 など)かならず立ち止まり、しばらく匂いを嗅いだりして大丈夫だということを確認してから通り過ぎます。 第三に頭が良く、フェ ンスの向こうの草を食べるためならどんなことでもすること。あるときは前足の膝を折り曲げ、フェンスの下から頭を出し草を食べ、またあるときはフェンスの 近くに横向きに寝そべり、首を後方に投げ出すような姿勢で舌を伸ばしては草を食べているのを見て、良くもまあ考えるなあと感心しました。
気持ちを込めて世話をしているため、この間一頭お肉屋さんへ持っていったとき、牛を見たとたんその人が「長い こと肉屋をやっているけど、こういういい牛に出会うのは久しぶりだ。この牛の肉はいいよ」といってくれたのを聞きとても嬉しくなりました。その肉を半頭分 買うことになった人にも(うちの母は「牛半ぺたってカナダの人はどれだけ食べるの?」と唖然としていましたが)お肉屋さんが太鼓判を押してくれていたとい うのを聞き、私達がやっていることが認められたように思い嬉しくなりました。
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